柔らかな彼女

気になるお客さん

PM5:00 残業がほとんどない、食品卸会社の派遣事務員の仕事を終わらせデスク回りのひとに
「お先に失礼します。」と声をかけビルの3階にある女子更衣室にむかう。
制服から、シンプルな黒の細身のパンツと白いシャツに着替え、外にでる。

会社の最寄駅から3駅移動した、自宅マンションのあるF駅から五分の路地にはいったところにある
居酒屋てまりへ。

初めててまりに入ったのは、21歳のとき。
定時あがりの派遣の仕事のあとふらりと寄った、この店が気に入り週1で通う常連客になった。

大将と仲良くなり、バイトとして18:30から0:00まで働くようになって4年近くたつ。
9:00~17:00の派遣と、てまりのバイトのダブルワークは普通に考えたらきついんだろうけど
一人の時間を持て余していた私には、逆に癒しだった。
お客さんたちとの言葉のやり取りが楽しくて心地よかった。

中にはあからさまに、口説いてくる男性客もいたけれど自分の中できっちり線をひいて接客していると
そんなにしつこくする人もいなかった。

そんな中、二か月くらいまえから通ってくれている須藤さんは、どこかほかの人と違って
やりにくい。

初めてお店に来た日、私の顔をみたまましばらく固まっていた。
その後、週に三回はきていて一人の時はカウンターで飲んでいる。

すごく優しい目で私を見つめ、注文をいれる。
お店がすいていれば自然な感じで世間話をする。
直接、口説かれたことはないけれど、私を見る目が優しすぎる上に、時々、熱を帯びたようで
すごく緊張してしまう。もちろん、表面上は何もないように接しているけれど…

自意識過剰かな?電話もメルアドも聞かれないし食事に誘われたこともない。」
あー、もう考えるのやめよう。意識し過ぎ。今日は金曜だし明日は土曜でお休みだ。

店のロッカーでエプロンをして、ホールに向かう。

…やはり今日も来てくれました。
須藤さん。今日はお友達の田川さんも一緒でテーブル席へ。



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