柔らかな彼女
いつものように、会社にいく。

いつもと違うのは、左手薬指にキラキラしたそれ。
会社では、あまり他の社員さんと親しくは付き合っていないので
何も言われないかな。
なるべく、地味に目立たず仕事をしてきた。
飲み会のお誘いも、予定があると言えば派遣なので無理には
誘われない。

「あれ?早坂さん、指輪してる。すごーい、ダイヤおっきい。
結婚決まったんですか?」
左隣の、中田恵美ちゃんにいきなり、つっこまれる。
今年の春、短大卒で入ってきた新入社員の彼女は、明るくて
誰にでも物怖じしない性格。
回りにも聞こえそうな、大きな声に一瞬ひるんでしまう。

「まだ、何にも、詳しいことは・・・。
とりあえず、これだけいただいたの。」

手と目はPCから動かさず、納品書の作成を続けながら小さく
答える。

「いーなー、どんな彼氏ですか?」

「って、恵美ちゃん、仕事中だから。この話はまた今度ね。」

「はーい、じゃあ、今日ランチ一緒してくださーい。
いろいろ聞きたいもん。」

なんとなく、他の社員さんもちらっと私の左手をみている
気がする。気のせいか?

休み明けの、月曜はメールやFAXでの注文も多くあっという間に
昼休みになってしまう。

「早坂さーん、行きましょ。ランチ。」

恵美ちゃんが、小さ目のトートバックをひらひらさせて後ろに立つ。
普段あんまりしゃべんないのに、どんな風に言えばいいんだろう。

2人で会社を出たところで、後ろから声をかけられる。

「恵美ちゃん、早坂さん、ご飯いくんなら俺も一緒にいい?」

振り返ると、うちの課の鈴木浩太主任が少し息を切らして立っている。

なぜ?今日?

「いいですよー、この先のカフェに行こうかと思ってたんです。
主任もそこで、良ければ。」

あっさりOKする、恵美ちゃん。2人の前で指輪について説明しなきゃ
なんないの?


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