柔らかな彼女

彼女が人気の理由

金曜日、今日は久々にカズと飲みに来た。
カズには呆れられている。週3回通って、何の進展もなし。
なんで、口説かないのか?…と。

28歳にもなって、いまさらだけど俺って自分から女の子口説いたことってなかった。
中学のころの初めての彼女のときから、告白されてかわいければ付き合う、みたいな。

付き合ってるときは、大事にしていたけど最終的には「私のこと好きじゃないでしょ」
といわれ振られる。ことがほとんどだった。

どうしていいか、わかんねーってのが本音。
でも、ここ二か月見てて何人もの男がメルアドきたり、ご飯誘ってるのに彼女はすべて
笑顔でかわしていた。俺がいってもきっと同じだよな-。

もう一つ、気づいたこと。

彼女は、客の名前はもちろん、客と話したささいなことまですべて覚えているっぽい。

彼女は月曜から金曜の平日すべて てまり に来ていてかなりの数の客を相手に
しているにもかかわらず、本当によく覚えている。

こないだは、50代くらいのサラリーマンらしき男がカウンターに座ると

「田中さん、おしぼりどうぞ。
そういえば、草津どうでしたか?週末お天気よくて、よかったですね。」

「そうなんだよ、ひさしぶりのかみさん孝行、喜んでもらえてよかったよ。
しかし、さあちゃん、よく覚えてたな。ずいぶん前に話したきりなのに
先週末ってことまで。」

と、こんな感じで客がした世間話をきちんと覚えていて、声をかける。
人間って、自分の話したこと覚えてもらえるのって結構、うれしかったりする。

それこそ、名前で呼んでもらえることも。若い男だけでなく、結構年配のファンが
多いのもきっと、彼女のそんな人柄あってなんだろうなって、思う。

誰にでも、平等な笑顔で、誰の話もきちんと聞いてくれる。
みんなのさあちゃん。
…そんな彼女を独占したくて仕方ない。でもこれ以上を望んで玉砕したらここに
来にくくなって、彼女に会えなくなるかもとか、ぐずぐず考えて何もできないでいる。

「なあ、たけ。明日仕事休みだろ。たまには俺と昼間から遊びいかない?暇だろ?」

「なんだよ、珍しいな。彼女は?」

「うん、なんか父親の実家の法事とかで、今日の夜の新幹線で静岡行ってて日曜まで
かえって来ないんだよ。いつも、映画だ、買い物だってつきあってたからたまには
男の休日満喫したい。」

「いーよ、どこか行くのか、決めてんの?」

「9:45に府中本町改札集合。男の休日スペシャル。」

「はいはい、久々のお馬さんね。オッケー。」
結局、終電ギリギリまで飲んで帰った。

「ありがとうございました。」

「さあちゃん、ごちそう様。また来週くるね。」

「お待ちしています。おやすみなさい。」

うー、ベットで言われたら、どんなに幸せだろう。なんてくだらないこと考えてる。


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