柔らかな彼女

2人で寄り道

帰りの電車の中。須藤さんは私が他の人につぶされないように
ドアの横に壁を作るみたいに守ってくれている。
いつもは、一人で楽しむ競馬場で今日はすごく楽しかった。

話も面白いし、お酒のペースも一緒。そしていつもの優しい目。
私、結構この人のこと、意識してる気がする。

彼の腕に囲まれた車内で
「さあちゃん、最寄駅ってどこ?」

「てまりの駅です。」

「じゃあ、うちの会社の駅だ。そこまで送るね。」

「えっ、いいです。悪いです。」

「じゃあさ、俺、まだ飲み足りないから夕飯こみでもう少し飲まない?
これから、帰ってコンビニ弁当じゃ味気ないし。」

「それなら、お付き合いします!私ももう少し飲みたいです。」

実は、お酒大好きな私。
府中でも、5杯ほど飲んだけど、全然たりてなかった。もっと
飲めるなんて、うれしくてついつい、ほっぺがゆるんじゃう。
須藤さんを見上げると、彼は少し酔っているのか顔が赤い。
結局田川さんは、途中で別れ須藤さんと二人で、私の最寄駅に降りた。

「さすがに、てまりってわけにはいかないよね。」

といって、須藤さんは創作和食の居酒屋に連れてきてくれた。

通された個室には、四角いテーブルでなく円を四等分した扇型のテーブルと
ソファが置いてあり、二人並んで腰掛ける。
メニューを二人でのぞきながら、食べたいものを決めていく。

なんか、恋人同士みたい。間接照明でうす暗く演出された個室で私の右腕が
彼の左腕にときどき触れる。

彼との会話が楽しくて、時間があっという間に過ぎていた。
彼が、時計をみて、

「ごめん、もうこんな時間だ。」
PM11:30 私の顔と、もう少しでなくなりそうなジョッキをみて
「もう、一杯だけ飲んだらおひらきにしようか?」

「はい。」

生ビールが二つ運ばれてきて、もう一度二人でジョッキを合わせる。
ごくごくっと、ビールを飲むと、一度ジョッキをテーブルに置いて
私のほうへ、向き直る彼。

「ねえ、さあちゃん。俺、今日すごく楽しかった。
さあちゃんと、こうやって過ごすのこの1回で終わりにしたくないんだ。
また、てまり以外でも、俺に時間作ってもらえないかな?
もう、バレバレかもしれないけど、初めてあったときから、ずっと
好きなんだ。付き合ってください。」

優しい瞳が、私の返事を待ってこちらを見つめている。嬉しい。
私も、須藤さんのこと好きだ。って、なんて言えばいいんだろう。
頭の中で、ぐるぐる考えて、彼の瞳を見つめていたら、思わず
吸い寄せられるように、彼の唇に、自分の唇を重ねていた。

彼が、驚いたように目を見開く。
私は一度、唇を離す、離すときに「ちゅっ!」というリップ音が小さく響いた。

その音を聞いた瞬間、離した唇をもう一度、重ねていた。
瞳を閉じて、彼のシャツがしわになるくらい胸のところを握りしめながら。

『私、酔ってる?』頭の中はぼーっとしたまま、彼の唇を何度もついばむ。
止まらなかった。

次の瞬間、されるままだった彼の手が、私の頭をがしっと掴み、私の唇を割って
彼の舌が入ってくる。
舌と舌が絡み合い、熱がこもり、熱い吐息が漏れる。

とっても長い熱いキス。唇を離したときにはお互い肩で息をして、呆然としていた。
何が起きたか、自分でもよくわからない。

「ごっ、ごめんなさい!!私、なんで?こんなことして…」
そうだ、告白されたのに、返事もせずにキスしちゃった。ありえない。
どうしよう。顔が熱くなる。きっと今真っ赤だ。

須藤さんも、戸惑っている感じ、しばらく考えた後
「えっと、これは…、OKもらえたってことでいいのかな?」
と私の顔を覗き込む。

「はい。っていうかごめんなさい。私…恥ずかしいです。」
うつむくしかない。

お互いにドギマギしながらも、彼が会計を済ませてくれ外に出る。

「送っていくよ。」といわれどちらともなく手をつなぐ。

駅前から、8分ほど歩くと私のマンションにつく。
しっかり手はつないだまま、彼の顔を見上げる。
「ここ…です。」

「あ、うん。じゃあ、お休み」
と離される手。

「いやっ!」と言って、しっかりにぎってしまった。

「えっ?」っと驚いて、私を見る須藤さん。

もう、私ほんとうに変だ。彼と離れたくない。どうしたらいい?

「あの、帰らないでください。
…、あのもっと一緒にいたいです。」

彼の手をぎゅっと握り、最後のほうは、どんどん小さな声になっていたけど
言いたいことを伝えた。

握っていたその手を、ぐいっと引き寄せられた私は、次の瞬間、彼に抱きしめられていた。
耳もとで

「あー、もう俺、どうしていいかわかんないよ。さあちゃん、嬉しすぎておかしくなりそう。
結構飲んだのに、酔いなんて全部、ふっとんじゃったよ。なんで、そんなかわいい事
言うの?どうすればいい?俺も離れたくない。」

「うちに、来てください………。」

私は彼の腕をひっぱり、マンションの中へ入った。



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