イジワル副社長と秘密のロマンス

それかと腑に落ちると、彼の背後に見え隠れする人々の表情が再び気になってくる。

私は樹君の陰に隠れるように身を小さくさせながら、小声で囁きかけた。


「今じゃないとだめなの? みんな見てるよ」


ぽつりとこぼした私の本音を聞いて、樹君も背後の様子を振り返り見た。そして口元に薄く笑みを浮かべながら、彼が私と向き直る。


「俺はここがいい。千花も堂々としてなよ。周りは副社長が自分の秘書に話があって来てるくらいにしか思ってないだろうから」

「……うん」


樹君が副社長に正式に就任した後、現会長が彼の秘書に私を指名した。

私たちの関係は公にしていないから、彼の言葉通り、この場に居合わせている社員たちは、私たちのこの状況を仕事の延長上みたいな目で見ているのかもしれない。

とは言え、樹君は社内でとても目立っている。

外見はもちろんのこと、仕事に対する姿勢や、発言一つとっても、彼の意志とは無関係に、いちいち人を惹き付けているのだ。

社員の羨望の的である彼の秘書であることを、私は誇りに思っている。

けれど“彼女”としては、ちょっぴり複雑だ。

輝いている彼と、輝けていない私。


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