イジワル副社長と秘密のロマンス
『大丈夫』
気持ちを強くするべく、私は彼の言葉を頭の中で繰り返した。
樹君は数歩進んでから、星森さんを振り返り見た。
「えっと……星村さんだっけ?……もしかして、社長はもう社を出る気でいる?」
「えっ? たぶん、そのつもりなんじゃないかと……あと私、星森と言います」
「他に何か言ってた?」
「……えっと」
星森さんは何か言いたそうな視線を私に向けつつも、疑問をぶつけながら再び歩き出した樹君のあとを追いかけて行く。
声が徐々に遠ざかっていく。ドアの閉まる音を境に辺りが静かになり、ホッと息を吐き出した音がやけに大きく響いた。
きっと樹君が星森さんを連れて行ってくれたのだと思う。
ふたりっきりにならずに済んだことを、樹君に感謝した。
+ + +
とっくに退社時刻を迎え、残業をしている社員の姿も少なくなり始めた頃、外出していた社長たちが慌ただしさと共に社に戻ってきた。
留守番をし、みんなの帰りを待っていた私は、さっそく社長に報告をする。
「14時ごろ松川ホールディングスの南社長からお電話がありました。明日またかけ直されるそうです。それから……」