イジワル副社長と秘密のロマンス
今の自分を見られたくなかった。
私は軽く笑みを浮かべてから「お先に失礼します」と深く頭を下げ、その場を離れた。
社長室を出ると、足が止まってしまった。
きっちり閉めた扉の向こうから星森さんの楽しそうな声が聞こえてくれば、ため息が出てしまう。
とりあえず秘書室に戻ろうとした時、「あっ!」と誰かが叫んだ。
声につられてデスクフロアに出ると、男性社員が一人だけ残っていた。
「……どうしたんですか?」
自分では力になれないだろうと思いながらも、頭を抱えているのを見てしまえば、声をかけずにはいられなかった。
男性社員は驚いて顔をあげた。私をほんの数秒見つめてから、自嘲気味に笑う。
「新しいカタログができたので全店舗に送ったのですけど、一部だけ入れるのを忘れてしまった店舗があって」
彼は持っていたカタログの表紙を私に向けた。
表紙を飾っていたのは津口可菜美だった。
笑顔でソファーに座っている彼女と目が合い、ついつい顔がこわばってしまう。
「しかも少し前に集荷に来てもらっちゃったから、いまさらどうこうすることも出来ないですし、これだけ追加でおくります」
「あっ、それ……一冊だけですよね?」