イジワル副社長と秘密のロマンス
実際の彼女がこんな表情を私に向けることなど、絶対に無いだろう。
「このあと予定が入っていたりしないですよね? 大丈夫ですよね?」
気遣わしく男性社員が問いかけてきた。
返答を思い浮かべるよりも先に、私は社長室の方を振り返り見ていた。
樹君はまだそこから出てきていない。
今この瞬間も、星森さんとじゃれ合っているかもしれない。
さっきの様子を思い出すと、だんだんと面白くなくなってくる。気持ちが重くなっていく。
彼の秘書に就いたあと、ふたりで食事には行っている。
けどそれは仕事帰りの一回だけである。次の日も仕事だったし時間も遅かったから、食べ終わったら早々に帰宅の途に就いた。
そんな慌ただしい記憶があるからこそ、金曜の今夜は樹君とゆっくり過ごせると、たくさん話ができるかもと、ものすごく楽しみにしていたのだけれども……果たして本当に、私は樹君とデートができるのだろうか。
社長にも夕飯を誘われていたのだし、もしかしたら今夜の約束はダメになってしまうかもしれない。
樹君はどうするつもりなんだろう。どちらを選ぶのだろうか。
「……あのっ! 予定があるなら、俺が行きますから。無理しないでください!」