イジワル副社長と秘密のロマンス
「……すみません。私、その人と知り合いかもしれません。もしまた訪ねてきて、私のことをいろいろ聞いてきたとしても、教えないでもらえますか? むしろ辞めたと言ってもらっても構いません」
頭を下げつつお願いすると、店長が困り顔のまま、口元に笑みを浮かべた。
「そうなのね、分かったわ。また来るかどうかは分からないけど、一応みんなにそう伝えておくわね。困った時は相談して。なにかできることがあれば、力を貸すから」
「すみません。有難うございます」
頭を下げた時、持っていたバッグの中から小音量の着信音が聞こえてきた。
バッグを開きながら頭に浮かんできたのは、袴田さんの顔だった。
連絡先を教えていないのだから、彼が電話をかけてくるはずもないのだけれど、こんな話を聞かされたあとだと、まさかと思ってしまう。
店長もちょっぴり口元を強張らせながら、私を見ていた。
恐る恐る着信の相手を確認して、ホッと息を吐く。自然と笑みも浮かんでしまう。樹君だ。
電話に出ていいものかとちらりと店長に目を向けると、私の様子に表情を和らげ「どうぞ」と言葉をくれた。
私も「すみません」と言葉を返し、店長に背を向ける。無意識のうちに部屋の隅へと足が進んでしまう。