イジワル副社長と秘密のロマンス
わざとらしく大げさに言い返すと、樹君が小さく笑った。つられて私も笑みを浮かべる。
あんなに不安だったのに、たったこれだけのやり取りで、心の靄がかき消されていく。
私も彼とのデートを楽しみにしていた。お互い同じ気持ちでいたことを、彼が教えてくれた。それがただただ嬉しかった。
『とにかく行くから、大人しくそこにいてよね』
彼への愛おしさで胸がいっぱいになり、夢心地だった私は、その一言で現実に引き戻された。
「……えっ。ちょ、ちょっと待って! それはまずいんじゃ……あっ」
電話を切られてしまった。心が焦りで波立っていく。
副社長である彼が店に姿を現したら、大ごとになるのは目に見えている。
しかも私を迎に来たのだと気付かれてしまったら、気まずい展開になってしまいそうだ。
星森さんのこともある。今は余計な騒ぎを起こしたくない。すぐに店を出た方が良いかもしれない。
携帯を取り落としそうになりながらも、それをなんとか急いでバッグにしまい、私は逃げ腰になりながら店長に笑いかけた。
「私、そろそろ帰ります」
店長は不思議そうな顔で私を見つめていたけれど、突然、にっこりと笑みを浮かべた。