イジワル副社長と秘密のロマンス
はやる気持ちのままそちらへと顔を向け……私は絶句した。
樹君かもなんていう淡い期待は、一瞬で砕け散ってしまった。
「……は、袴田さん」
最近は姿を見かけなくなったと店長が言っていたから、袴田さんの気は済んだのかもと、都合よく解釈してしまっていたけれど……どうやら甘かったらしい。
「やっと、会えましたね」
虎視眈々とこの機会を狙っていたかのような言い方をされ、肌が粟立っていく。
「ずっと、あなたの姿が店になかったので、心配していました」
「……私に何か用ですか?」
「あんな別れ方をしてしまったので、もう一度ちゃんと話をしたくて……もちろん二人っきりで」
“ふたりっきり”の部分で、袴田さんの唇の端がぴくぴくと歪な動きを見せた。
恐い。逃げたい。
うすら寒さと共に一気に湧き上がってきた感情が、右足を後退させていく。
けど次の行動に移る前に、袴田さんの手が素早く私の腕を掴んできた。
ぎゅっと、強い力が込められ、私は心の中で絶叫する。確保されてしまった気分だ。
「行きましょう」
「嫌です! 行きません! 話す事はありません!」
「いえ、僕たちは話し合った方が良い。話せば、もっと深くわかり合えるはずなんです」