イジワル副社長と秘密のロマンス
そう耳元で囁かれ、鼓動が一際強く跳ねた。
男性に免疫がないと言っていいレベルの私に、正直、この刺激は強すぎる。
足の力が抜けていく。壁を背にしたまま、私はズルズルとその場に崩れ落ちた。
「これくらいで、腰抜かさないでよ」
「だっ、て、樹君がっ」
突然キスを、それもとびっきり甘いキスをしてくるからだと言い返そうとしたけれど、私を見降ろしている樹君の顔がいつも通り涼しげなことに気付いてしまい、私は口を噤んだ。
あんなキスをしたあとなのだから、すこしくらい照れを見せてくれても良いのに、その表情は全く崩れていない。
しかめっ面で樹君を睨んでいると、また彼が私の鼻先に手を差し出してきた。
「立てる?」
「立てない!」
可愛げがないことは分かってるけど、余裕がないのは自分だけだということが悔しかった。
そっぽを向くと、やや間を置いてから、樹君が「あぁ、なるほどね」と呟いた。
何がなるほどなのかと睨みつけると、見降ろしている彼の瞳が柔らかく細められた。
「運んでほしいってことね」
「……運ぶ?」
楽しそうな口ぶりで出てきた言葉に、思わず首が傾いてしまう。
「何を?」
「千花を」