イジワル副社長と秘密のロマンス
言いながら、樹君が廊下に片膝をついた。私に向かって手を伸ばしてくる。
「えっ……えっ!? 私!? ちょっと、待って。どういうこと?」
「このままベッドに直行してほしいってことでしょ? 了解」
伸びてきた彼の手が、私を抱きかかえ上げようとしていることに気付かされれば、気が動転してしまう。
「ちっ、違うっ! そんなこと思ってないからっ! お構いなくっ!」
遠慮なく触れてくる彼の手を、私も遠慮なく押し返す。よろめきながらも、必死に立ち上がった。
「立てないんじゃなかったの?」
「えっと!……リビングはこっちだよね!」
私はわざと大きな声を出して、後ろから聞こえてきた不服そうな声をかき消した。続けて不機嫌なため息も聞こえてきたけど、それも聞こえないふりである。
緊張と不安と気恥ずかしさに押しつぶされそうになりながら、ふらふらと廊下を進んでいくと、後ろで彼が「まぁいいか。準備しとこ」とそんな独り言を発した。
聞こえた言葉が引っかかり、肩越しに後ろを振り返り見ると、ちょうど樹君が廊下の途中にあるドアを開けたところだった。
「準備?」
弱々しく問いかけると、樹君が不敵に笑う。