イジワル副社長と秘密のロマンス


「風呂の準備……入るでしょ? もちろん一緒に」


思わず口が半開きになった私をその場に残して、樹君は扉の奥へと姿を消した。



+ + +




緊張で、身がもたない。


一緒に入りたいんだけどなんでダメなのと、不満の文言を繰り返す樹君を無理やりリビングに残し、私は今、湯船にひとり浸かっている。

湯船も広いし、本来なら、のんびりくつろいでしまうところだけど、状況が状況なので、そうもいかない。

両ひざを抱えたまま、私は水面から立ち上っていく湯気をぼんやりと見つめた。

少し身動きをすれば、ぴちゃりと音を立てて水面が揺れた。静かすぎて、その音がやけに響いて聞こえた。

もう長いことお風呂場に閉じこもってしまっている。

ずっとここにいるわけにもいかないし、ちょっぴりのぼせてきてしまってもいるから、そろそろあがらなくちゃとは思うのだけれど……この後のことを考えてしまうと、ドキドキが止まらなくなって、動けなくなってしまう。

……この後のことも了承した上で家に上がりこんでおいて、このままうだうだと閉じこもっていたら、樹君に呆れられてしまうだろうか。

話が違うとか、もういいや面倒くさいとか、今部屋にひとりでいるだろう彼に、そんな風に思われていたら、どうしよう。

考えてしまうと、なんだか悲しい。


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