イジワル副社長と秘密のロマンス
緊張と恥ずかしさで逃げ出したくなってしまう気持ちと、覚悟を決めなきゃという気持ちの狭間で揺れ動いていると、かちゃりと脱衣所の方から音がした。
廊下に面している扉が開かれた音だ。入ってくると言ったら、もちろん一人しかいない。
「千花。大丈夫? 生きてる?」
思わず焦ってしまったけれど、すりガラスに樹君の影が映りこみ、問いかけられた言葉を聞いて、肩の力が抜けた。
私があまりにも長湯をしているから、心配して来てくれたのだろう。
「うん。ごめん……あの……湯船が大きいから、くつろいじゃった」
出来る限り明るく返事をした。
ひとり悶々と、無駄な時間を過ごしている間、私は樹君を心配させてしまっていたらしい。
申し訳なさに包まれつつも、彼の優しさに触れたことで、少しずつ気持ちが前向きなっていく。
せっかく二人っきりで過ごせるというのに、なぜ私は一人になってしまっていたのだろう。
樹君との時間を大切にしたい。
ここまで来たら不安なままでいい。狼狽えたままでもいい。今抱えている気持ち全部で、樹君にぶつかっていくことにしよう。
気合を入れるべく、私は手の平で湯をすくい、ぱしゃりと顔にかけた。