イジワル副社長と秘密のロマンス
階下から、少し間延びした口調で、朝子さんが再び俺の名を呼んだ。
行かない――……そのつもりだったのに。
「はい。今行きます」
声を張り上げて、俺はそう返事をしていた。
なんだろう。身体の中がむず痒い。
さらりと心を撫でられたような、そんな変な感触に戸惑いながら、俺は窓際から離れ、ゆっくりと部屋を出た。
階段を降り、リビングに入ると同時に、ユメが俺に飛びついてきた。
「ちょっ……落ち着いて」
言ってみたところで、来客にテンションが上がり、いつも以上にはしゃいでいるユメを、落ち着かせられるわけもない。
テンションを受け止めきれない俺は、ユメにされるがままになっていると、ぱたぱたと足音を響かせながら、彼女が近づいてきた。
「ユメ!」
身体を撫で始めたことで、ユメの興味が俺から彼女へと移動し、そして「ユメにもおやつをあげましょうね」と朝子さんが話しかけてきたことで、また気持ちが移り変わっていく。
俺と彼女を戸口前に残し、ユメはキッチンにいる朝子さんの元へと尻尾を振りながらかけて行く。
「ユメって可愛いよね」
彼女が笑みを浮かべて、囁きかけてきた。
軽く頷き返すだけに留めると、今度はじっと俺の顔を見つめてくる。しかも不思議そうな顔で。