イジワル副社長と秘密のロマンス
まだまだたくさん。
言葉通りに、また朝子さんがキッチンからお菓子を運んでくる。テーブル上を埋め尽くしていく。部屋の中が甘い匂いで満たされていく。胸やけがしてくる。
隣りに座る彼女が、俺の腕に触れた。こっそり話しかけてくる。
「大丈夫? 顔面蒼白だよっ!」
眼尻に涙を浮かべ、笑っている。お腹を抱えて、笑い出す。
彼女が面白がっているのは明白なのに、反発する気が起きなかった。
笑い声が気に障らない。むしろ自分の腕に、彼女が触れているそこに気持ちがいってしまう。
「しっかり、たくさん食べるんだよ!」
からかい交じりにそう言って、きゅっと、彼女が手に力を込めた。
自分のものではない手の感触に、温かさに、呼吸が止まる。
俺に向けている彼女の柔らかな微笑みから、目が離せなくなった。
「樹君!」
鼓動が跳ねた。
自分を“樹君”と呼ぶやつなんて、周りにいくらでもいるのに……初めて自分の名前が意味を持ったかのように、彼女の声が俺の中に響いた。
+ + +
「いーつーきーくーーんっ!」
後ろから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺が握りしめているリードの先にいるユメがその声に反応し、動きを止めた。尻尾をぶんぶん振っている。