イジワル副社長と秘密のロマンス

まだまだたくさん。

言葉通りに、また朝子さんがキッチンからお菓子を運んでくる。テーブル上を埋め尽くしていく。部屋の中が甘い匂いで満たされていく。胸やけがしてくる。

隣りに座る彼女が、俺の腕に触れた。こっそり話しかけてくる。


「大丈夫? 顔面蒼白だよっ!」


眼尻に涙を浮かべ、笑っている。お腹を抱えて、笑い出す。

彼女が面白がっているのは明白なのに、反発する気が起きなかった。

笑い声が気に障らない。むしろ自分の腕に、彼女が触れているそこに気持ちがいってしまう。


「しっかり、たくさん食べるんだよ!」


からかい交じりにそう言って、きゅっと、彼女が手に力を込めた。

自分のものではない手の感触に、温かさに、呼吸が止まる。

俺に向けている彼女の柔らかな微笑みから、目が離せなくなった。


「樹君!」


鼓動が跳ねた。

自分を“樹君”と呼ぶやつなんて、周りにいくらでもいるのに……初めて自分の名前が意味を持ったかのように、彼女の声が俺の中に響いた。




+ + +




「いーつーきーくーーんっ!」


後ろから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

俺が握りしめているリードの先にいるユメがその声に反応し、動きを止めた。尻尾をぶんぶん振っている。


< 184 / 371 >

この作品をシェア

pagetop