イジワル副社長と秘密のロマンス
左側は鳥居があり、神社の案内看板が出ている。
右側には自然公園への案内看板。彼女は迷うことなく右側の道へと足を進めていく。
「樹君、こっち!」
先を歩いている彼女が振り返り、屈託ない笑みを浮かべて俺を呼ぶ。
暑いとか、喉が渇いたとか、ユメの毛皮が見てるだけで暑苦しいとか、余計なことを考えつつも、俺は彼女の声が導くままに歩き続けた。
山道を進み、少し開けた場所へ出た。
「ねぇ、見てみて! 良い眺めだと思わない?」
彼女の隣に立ち、ステンレスの柵に手をかける。柵の向こうは崖になっていて、景色を遮るものはなく、街が一望できた。
街並みにオレンジ色の陽光が降り注いでいる。素直に綺麗だと感じ、俺は苦笑いする。
風景を見て綺麗だと思ったのは初めてだった。
何が切っ掛けになっていたのかよく分からないけれど、自分はいつの間にか、母親が望んでいた心の成長とやらをしていたのかもしれない。
ぼんやり街並みを見つめていると「樹君」と彼女が切なげに俺を呼んだ。
「私はここから眺める景色が好きなんだけど、樹君は……そうだよね。たった一ヶ月過ごしただけじゃ、思い入れもなにもないし、なんとも思わないよね」