イジワル副社長と秘密のロマンス
鳴き声と飛びかかってきたユメに気づいて、千花が何かを探すように辺りを見回した。
そして俺を見つけた彼女が、笑みを浮かべた。
思わず、足が止まる。ほほ笑んでいるのに、今にも泣き出しそうに見えたからだ。
途端、苛立ちが湧き上がってくる。止まっていた足は、すぐに動き出す。
「悪いね。うちの犬が邪魔したみたいで」
リードの持ち手を拾い上げようと身を屈めた瞬間、強い力で突き飛ばされた。
俺はよろめき、地面に片手片膝を着く。態勢を立て直す前に、男が俺の胸倉を掴んできた。
「お前目障りなんだよ!」
「森君、やめて! 樹君に乱暴なことしないで!」
千花が止めに入ると、森君とやらは顔をしかめながら、俺から手を離す。
手は離したけど怒りは抑えきれないらしい。俺を睨みつけてから、千花に荒々しく言い放った。
「絶対来いよ! 待ってるからな!」
言うだけ言って、森は俺たちに背を向け去っていく。
ユメは身を竦ませ動けないでいる千花の足元をうろうろしつつ、警戒しているように男を見つめている。
「大丈夫?」
歩み寄り声を掛けると、千花がハッとしたように俺を見た。
「樹君こそ、大丈夫?」
「俺は平気だけど。絶対来いよとか、喧嘩でも売られたの?」
「ううん。そう言うんじゃないんだけど……」