イジワル副社長と秘密のロマンス
千花が黙ってしまったから、俺はそれ以上聞くこともせず、とりあえずユメのリードを拾いあげた。
「散歩、行ける?」
確認すれば、千花が笑みを浮かべ「うん」と首を縦に振った。
さっきまで彼女が苦しそうな顔で首を横に振っていたことを頭の片隅で思い返しながら、俺は千花と並んで歩き出した。
「ちょっと休憩しない?」と千花に誘われ、俺は公園のベンチに腰を下ろす。
足元で身体を丸めたユメを撫でている千花を何気なく見つめていたけれど、彼女の手の違和感に気づき、俺は首を傾げた。
「指、どうしたの?」
ぽつりと問いかけた俺の言葉に、千花がやけに大きく肩を揺らした。俺の視界から隠すように両手の指を組んだから、怪しく思えてきてしまう。
目を眇めると千花は観念したらしく、わずかに肩を落とした。
「私ね、手芸部なの。それでね。来週、中学校近くの保育園に遊びに行くことになっていて、プレゼント用にぬいぐるみを作ろうってことになってて……さっきまで家で作ってたんだけど」
「へぇ。で、負傷したわけ?」
「負傷って……確かにそうだけどさ」
「どんなの作ってるの?」
「時間もないし、私けっこう不器用だし、本格的なものじゃないけど」
言いながら、千花は持っていたトートバッグからフェルト生地の何かを取り出し、俺に差し出してきた。