イジワル副社長と秘密のロマンス
「……この黒くて丸い塊は」
「塊じゃない! ネコだよ!」
全く見えない。
言葉にはしなかったけど、ついつい笑ってしまう。案の定、「笑わないでよ!」と怒られた。
千花は俺の手から黒い物体を奪い取りバッグの中へ戻すと、代わりに一冊のリングノートを取りだした。
膝の上でぱらりと開かれたノートには、ネコの顔と思われるデザイン画がいくつもかかれている。
「笑顔にした方が良いかなって思ってたけど、やっぱりこのネコは樹君のイメージかも」
続けて取りだしたペンで、さらさらとネコの顔と思しきものを千花が書き出していく。
「……なにそれ。喧嘩売ってんの?」
文句を言えば、千花がニヤリと笑った。
千花はふふっと笑いながら、自分が描いたネコと俺の顔を、楽しそうに見比べている。
彼女が描いたネコ(仮)は目つきがものすごく悪かった。多少コミカルに描かれてはいるけど……それでも微妙に悪意を感じる。
「子供受けは悪いかもしれないけど、やっぱり樹君みたいにしよう」
「俺、そんなに目つき悪くないけど」
「上手く作れたら、絶対可愛い。上手くできる自信ないけど頑張ろう」
「聞いてる?」
千花はもう一度バッグの中から黒い塊を取り出した。それを眺めてニヤニヤしている。
「顔、にやけすぎ」なんて言ってみたけど、彼女はお構いなしにぬいぐるみ(仮)を見て楽しそうに笑っている。
そんな彼女を見ていると、だんだん文句を言う気も失せてきて、逆に、ぬいぐるみ(仮)を撫でる手つきが愛おしげに見えてしまえば、なんだか居心地が悪くなっていく。