イジワル副社長と秘密のロマンス
俺はゆっくりと、ベンチから立ち上がる。
「とりあえず、帰ろっか」
「うん!」
さっき描いたウサギみたいに、千花が笑みを浮かべた。
自分が描いたそれが、千花の手によってどんな塊に変化するのか。夏休みの楽しみが、また一つ増えた気がした。
+ + +
駅近くの手芸屋で材料を買い終え、俺たちは薄暗くなった道をバス停に向かって歩いていく。
顔をあげると、人と人の間を縫うように前方から向かってくる自転車に気が付いた。けっこうスピードが出ている。
俺の隣を歩く満足顔の千花は、気持ちが高ぶっているらしく、足が地についていないように見える。少しふらふらしている。
自転車とぶつかりそう。そんな危なっかしさを覚えて、俺は千花の腕を掴んだ。自分の方へと引き寄せる。
案の定、自転車をこいでいる男性は速度を弱めることもせず、猛スピードで千花のそばを走り抜けていった。
「危ない」
イノシシみたいなそれを見送りながらぽつり呟くと、俺の腕の中で千花が「樹君」と声を発した。
視線を落とせば、顔を真っ赤にさせた千花と目が合った。そして同時に、自分が彼女を抱きしめている格好でいることにも気がついた。心拍数があがる。