イジワル副社長と秘密のロマンス
「自転車にぶつかりそうだったから」
「う、うん。大丈夫。わかってる。ありがとう」
すぐに身体を離したのに、鼓動がおさまらない。手の中に彼女の感触が残っているから、なおさら落ち着かない。
気まずさを追い払えないまま、ゆっくりと歩き出したけれど、掲示板の前で彼女の足が再び止まってしまった。もちろん俺の足も止まる。
千花は無言のまま、そこに掲示されているポスターを切なげに見つめていた。
「どうかしたの?」
「えっ?……あ、うん」
見ていたポスターはどこかの広場で八月初旬に行われるお祭りの告知だった。
焼きそばとかヨーヨー釣りとか盆踊りとか、書かれているそんな文言を黙読していると、千花にいきなり腕を掴まれた。
「あのね、樹君」
「……何?」
やや間が空いたから聞き返したけど、言葉は返って来なかった。困ったような顔をして、千花は俺を掴む自分の手を見つめている。
「あっ! 千花だ!」
「うそっ! あの人もいる!」
「ホントだ! ラッキー!」
聞こえてきた声に反応し、眉間にしわがよっていく。
足音と共に姿を現したのは、この前、駅前で会ったあの女二人だった。今日も騒がしい。