イジワル副社長と秘密のロマンス
「俺は行かない。男と一緒に行きたいなら他をあたって……行くよ、千花」
「う、うん」
断言してから歩き出すと、やや間を置いてから、足音が自分を追いかけてきた。
人の列に並べば、ちょうどバスも停車しドアを開く。俺は振り返ることもせず、車内に乗り込んだ。
空いてる席に座れば、千花も俺の隣に腰を下ろした。ちらちらと窓の外を気にしている。
バスが走りだした。俺は小さく息を吐く。
「……樹君。今日は、付き合ってくれてありがとう……あのね」
買い物袋をぎゅっと抱きしめ、少しこちらに身を乗り出す体勢で、千花が俺を見ている。真剣な顔に、思わず息を詰めた。
「私も行かないから!」
「え?」
「夏祭り。森君と」
“夏祭り”と“森”。今は、それらの言葉を彼女の口から聞きたくない。苛立ちが再発する。
「私ね……」
「なんで? 行けばいいじゃん」
込み上げてくる感情のままに、言った。千花が固まったのを見ても、言葉は止まらなかった。
「約束したんでしょ? 森ってやつのために、浴衣まで新調したんだから行けばいいじゃん。行かない意味が分からない」
息を吐き出せば、頭の中が少し冷静になる。この話はしたくない。森なんてどうでもいい。もう終わりにしたい。