イジワル副社長と秘密のロマンス
「まぁ……別にどっちでもいいや。千花の好きにしたら?」
“だって、俺には関係ないから”
「そうだよね……樹君には関係のないことだもんね」
あえて言葉にしなかった思いを、千花がはっきりと口にした。
見透かされたことに、どきりと鼓動が鳴った。身体の中で重々しく響いている。胸が重苦しい。苦しくて仕方がない。
千花も苦しそうな顔をしていることに気づけば、同時に、この重苦しさの意味を知る。
俺、後悔してる。
言い合いなんて日常茶飯事のこと。いつもはそんな風には思わないのに、今俺は、千花を傷つけたことを後悔していた。
後悔と共に、自分の思いも気付かされる。
彼女を傷つけたくない。そんな顔をさせたいわけじゃない。笑っててほしい。悲しませたくなんてない。
けど、どんな言葉が彼女の心の薬になるのか、俺には見当もつかなかった。
二人の間に沈黙が落ちる。
バスを降り、家に向かって歩き出してもまだ、俺たちは何も喋らずにいた。
さくさくと土を踏む音だけがやけにはっきり響いている。
牧田家、それから千花の家へ続く分かれ道へと差し掛かる。
散歩の時もここで分かれている。いつもは「じゃあね」「またね」と短い言葉を交わし、俺たちはそれぞれの道へと進んでいく。