イジワル副社長と秘密のロマンス

彼女は朝子さんお手製のクッキーを頬張りながら「凄く喜んでくれたよ」と俺に報告をし、そしていつものように昴じいさんと世間話をし、「またね」と手を振り、帰って行った。

そのあと、俺もいつものようにユメの散歩に出て気が付いた。ここ最近、千花とふたりでユメの散歩をしていないということに。

牧田家には来ている。けれど散歩には来ない。千花が俺とふたりっきりになることを避けているような、そんな予感がした。

ぬいぐるみの作成という用事がなくなったからか、千花は木曜日も金曜日も牧田家に来なかった。そしてやっぱり散歩にも姿を現さなかった。

二日連続で家に来ないということは、特に珍しくないけれど……散歩に顔を出さないというのは、やっぱりあの時の俺とのやり取りが尾を引いているとしか思えなかった。


『私ずっと……ずっと樹君を誘うつもりだったの』


彼女の悲しそうな声が、必死な表情が脳裏に蘇ってくる。


『なんで? 行けばいいじゃん』


付随して、自分が彼女に向けて放った言葉も思い出す。俺は唇をかんだ。

森への対応に困っていた千花を見ていたはずなのに、あの時、冷静さを欠いていた俺からその記憶が抜け落ちてしまっていた。

一人になり、冷静になり、やっと思い出したのだ。


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