イジワル副社長と秘密のロマンス
飛ぶように坂道を降りていくと、家を探すまでもなく、今会いたい人が小道に立っていた。
「無理だよ。私、森君とは行けない」
「頼むよ。俺と付き合えないって言うなら、一度だけデートしてくれ。それで俺、三枝のことちゃんと諦めるから。頼むよ!」
そこには、会いたくないヤツもいた。今日も千花を困らせている。
「ほんと、しつこいヤツ」
話しかけると、向かい合っていたふたりが、ほぼ同時に俺へと顔を向けた。
「あんたみたいなタイプとデートなんかしたら、火に油を注ぐだけだよね。大人しく諦めるなんて到底思えないんだけど」
千花と目と目が合った。途端、強張っていた表情が崩れ落ちていく。じわりと瞳が涙で潤んだのが見えた。
「樹君」
走りだす切っ掛けを作ってくれた朝子さんに感謝する一方、千花の声が震えていることに怒りが湧いてくる。
「お前」
相手もどうやら同じらしい。苛立ちの表情を浮かべ、まっすぐ俺に向かってくる。
「よそ者は黙ってろ。黙って消えろ!」
目の前に立つと、いつかと同じように、俺の胸倉を掴みかかってきた。千花が小さく悲鳴をあげた。駆け寄ってくる足音も聞こえてくる。