イジワル副社長と秘密のロマンス
「1時間あれば、準備できる?」
俺の問いかけに彼女がきょとんとした顔をしたから、ちゃんと言葉にした。
「浴衣の千花とデートがしてみたいんだけど」
さらに千花の顔が赤くなっていく。
「1時間! 大丈夫! 準備できる!」
小刻みに首肯し、たどたどしく言ってきたから、思わず苦笑する。
「じゃあ、一時間後にこの場所で待ち合わせ」
「うんっ!」
約束を交わす。俺は千花から手を離し、笑みを浮かべた。
千花と別れ、牧田家へと戻った俺は、朝子さんが用意してくれた浴衣に袖を通した。
一階へ降り、朝子さんに浴衣を着たことを報告すれば、なぜか牧田夫妻ははしゃぎだし、テンション高いふたりと写真を撮ることになる。
そうこうしているうちに30分が過ぎ、一緒に行きたいと駄々をこね始めた昴じいさんをその場に残し、俺は足早に外へ出た。
蒸し暑さの中、坂道を下り、約束の場所にたどり着く。
それから千花が俺の前に現れるまで、10分もかからなかった。
夏祭りの会場は、俺の知ってる場所だった。
小学生の時に彼女と一緒に来たあの公園は、今は人で溢れ返っている。
並んだ屋台に目を輝かせながら歩いている千花が、ふらりとどこかに迷いこんでしまいそうな気がして、俺は気が気でなくなっていく。