イジワル副社長と秘密のロマンス
かちゃりと音を立て、静かにドアが開かれる。恐る恐るといった様子で、社長が室内を覗き込んできた。
「さっき廊下で津口さんとすれ違ったけど……やっぱり樹の所にも行ったんだな。納得してくれたか?」
「どうだか。でもまぁ、納得するしかないんじゃない? どう言われようがこっちは譲らないし」
はっきりとした物言いに社長が「だよな」と言葉を返した。ホッとした表情も見せている。
私も樹君の追求から逃れられたことにホッとしたかったけれど、そう上手くはいかなかった。
「だから問題なし……そっちは、ね」
“そっちはね”と、樹君が腑に落ちないような目で私を見る。“こっちは問題あり”と彼に思われていることは明白で、自然と顔をそむけてしまう。
「そうだ。星森さんを見かけなかったかな? お使いを頼みたかったんだけど」
開けっ放しのドアを振り返り見ながら、社長が前髪をかき上げた。私はゆるりと首を振る。
「星森さんですか? いえ。ここには来ていませんけど」
「和菓子を買ってきてもらおうかなって。これから会長の大切なお客様がお見えになるらしくて、急ぎなんだけど」
「だったら、人探しするよりも手の空いてる人に頼んだ方が早いんじゃない?」