イジワル副社長と秘密のロマンス
境内は人で賑わっている。参拝の列に並ぶと、千花に袖を引っ張られた。
「樹君。黒ネコ、持っててくれてありがとう」
「もういいの?」
ニコリと笑って差し出された千花の手に、ずっと持っていた微妙な黒ネコをおく。
彼女はありがとうを繰り返すと、ウサギらしきものの上に黒ネコを重ね持ち、嬉しそうに笑った。お参りを済ませると、俺たちは参道を引き返していく。
鳥居を抜けたところで、千花が足を止めた。くるりと踵を返し、本殿の方をじっと見つめてから、左手に持っていたマスコット人形へと視線を落とした。
俺も足を止める。声をかけずに、真剣な横顔を黙って見守っていると、千花が二体の人形を自分の胸元へと押し当てた。瞳を閉じたその姿は、何かを祈っているかのようだった。
神社を出て、祭りが催されている公園へと向かう。予想以上に賑わっている場内を歩いていると、目と鼻の先にあるベンチから子供たちが立ちあがり、走りだした。
千花は下駄の鼻緒が当たって痛いらしく、さっきから足を気にしている。
今年も展望台にのぼろうと話をしていたけれど、俺は頭の中でその予定を却下し、空いたベンチへと手を引いていく。