イジワル副社長と秘密のロマンス
何度か俺に視線を向けてから、やっと彼女が口を開いた。
「私ね……高校を卒業したら、東京の大学に進学したいって思ってるの」
「えっ」
「樹君の住んでる場所に行きたいの。そうしたら、いつでも樹君に会えるから」
言葉を失った。彼女の純真な思いが伝わって来て、心が苦しくなっていく。
「受験はまだまだ先の話だけど、樹君からパワーもらったから頑張れる」
千花は少しだけ目を潤ませて、両手で持った人形たちを見つめている。
「頑張る」
力強く宣言し、彼女は黒ネコと白ウサギの手と手をそっと重ね合わせた。
そんな彼女がたまらなく愛しかった。
とうとう、この町を離れる日がやってきてしまった。
キャリーバッグを持って一階へ降りると、そこにはちょっぴり元気のない牧田夫妻と、田代さんが待っていた。
祖母ちゃんの計らいで、俺はこのまま田代さんに空港まで送ってもらえることになったのだ。
荷物を玄関先におけば、田代さんが「運びますね」と置いたばかりのそれを持って外へ出て行った。
「樹くん、クッキーを作ったのよ! 今袋に詰めるから、ちょっと待ってて頂戴ね」
「……あ、ありがとうございます」