イジワル副社長と秘密のロマンス
「それでいいのか」
「うん。今の俺には、千花を幸せにできる自信がない」
「……樹」
「樹君、これ、奈都子(なつこ)お姉さんにも渡すことができるかしら……あらあら」
クッキーの入った袋をふたつ持って、朝子さんが戻ってきた。しかし、俺と昴じいさんを交互に見て、表情を曇らせた。きっと場の空気から何か察したのだろう。
「ありがとうございます。祖母のぶんは、田代さんにお願いしておきます」
俺はクッキーの入った袋を朝子さんから受け取り、頭を下げた。
「お世話になりました」
ゆっくりと身体を戻し、笑みを浮かべる。
「また来ます」
「樹っ!」
飛びついてきた昴じいさんを苦笑いで押しのけて、俺は玄関から外に出た。
「坊ちゃん」
玄関わきで控えていた田代さんが、控えめに声をかけてきた。田代さんはにこりと笑った後、視線を遠くに伸ばす。
つられて顔を向け、ハッとする。門の所に、千花が立っていた。俺は持っていたクッキーの袋を田代さんに押し付け、彼女の元へと走り出した。
「千花。来てくれたんだ」
「もちろん! 樹君を見送りに来たよ!」