イジワル副社長と秘密のロマンス

明るく元気に笑ってるけど、千花の目には涙が浮かんでいた。胸が締め付けられていく。

門を押し開け、俺は千花と向き合い立った。


「ありがとう」

「どういたしまして……それとね。私もありがとう。すっごく楽しかったよ。本当に本当に本当に……私にはもったいないくらい、素敵な夏休みだった」


涙が一粒流れ落ちた。それを切っ掛けに、千花の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。

俺は千花の頬へと手を伸ばし、頬を伝う涙を指先で拭った。泣かないで。そう気持ちを込めながら。


「樹君は? 楽しい夏休みになった?」


あまりにも真剣な顔で聞いてくるから、つい笑みを浮かべてしまう。


「まあまあ、楽しかった」


素っ気なく言えば、千花は唇を尖らせた。思った通りの反応を返してくれたから、やっぱり笑ってしまう。

今年の夏は、楽しいって言葉だけじゃ物足りない。千花のそばにいれたから、幸せだった。千花と積み重ねた思い出は、俺の心の中で、宝石みたいに輝いている。

そっと千花を引き寄せ、抱き締めた。

ここで「好きだ」と告白したら、心を掴めるかもしれない。千花をこのまま“彼女”として繋ぎ止めておけるかもしれない。

誰にも渡したくないという思いも、そんな考えに拍車をかけていく。

けれど俺は、出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。

千花のためを思うなら、縛り付けちゃいけない。


< 360 / 371 >

この作品をシェア

pagetop