イジワル副社長と秘密のロマンス
明るく元気に笑ってるけど、千花の目には涙が浮かんでいた。胸が締め付けられていく。
門を押し開け、俺は千花と向き合い立った。
「ありがとう」
「どういたしまして……それとね。私もありがとう。すっごく楽しかったよ。本当に本当に本当に……私にはもったいないくらい、素敵な夏休みだった」
涙が一粒流れ落ちた。それを切っ掛けに、千花の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。
俺は千花の頬へと手を伸ばし、頬を伝う涙を指先で拭った。泣かないで。そう気持ちを込めながら。
「樹君は? 楽しい夏休みになった?」
あまりにも真剣な顔で聞いてくるから、つい笑みを浮かべてしまう。
「まあまあ、楽しかった」
素っ気なく言えば、千花は唇を尖らせた。思った通りの反応を返してくれたから、やっぱり笑ってしまう。
今年の夏は、楽しいって言葉だけじゃ物足りない。千花のそばにいれたから、幸せだった。千花と積み重ねた思い出は、俺の心の中で、宝石みたいに輝いている。
そっと千花を引き寄せ、抱き締めた。
ここで「好きだ」と告白したら、心を掴めるかもしれない。千花をこのまま“彼女”として繋ぎ止めておけるかもしれない。
誰にも渡したくないという思いも、そんな考えに拍車をかけていく。
けれど俺は、出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。
千花のためを思うなら、縛り付けちゃいけない。