イジワル副社長と秘密のロマンス


「千花。俺との約束、覚えてる?」


“約束”という言葉に、ドキリとしてしまう。グラスを持った手がちょっとだけ震えた。


「誰とも付き合ってないなら、俺ともう一度、付き合ってみる?」


ほんの数秒、時間が止まった。



それは十年も前の約束。



私たちがまだ高校一年生だったころのこと。

夏休みの間の、ほんの一か月だけ、樹君と私は“彼氏と彼女”だった。

今考えれば、子供の遊びの延長上みたいな、そんな関係だったけど、私は彼に真剣な恋をしていた。

彼が東京に帰る日、私に言った。

『また会った時、千花が寂しく一人でいたら、俺がもう一度付き合ってあげる』と。

小学校の頃から毎年来ていたから、私はまた来年になれば、この地でまた彼に会えると思っていた。

けれど、彼は来なかった。

次の年も、その次の年も、彼は私の前に姿を現さなかった。

後になって気付かされる。彼が“来年”と言わなかったことに。

ここに来るのが最後だと分かっていて、私を“彼女”にしてくれたのかもしれない。

悲しくて、逢いたくて、どうしようもなく辛かった。いっぱい涙を流した。

彼の存在が、私の中でどれほど大きかったかということを、思い知らされた。


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