イジワル副社長と秘密のロマンス
樹君は小悪魔みたいな顔をして、そんなことを言ってくる。
「ご期待に添えられなくて申し訳ありません! 私は今のところ、転職の予定も引っ越しの予定もありません。諦めてください!」
からかわれているのは、分かっているのに、ついつい膨れっ面で言い返してしまった。私もまだまだ子供だ。
「まぁいいか。近いんだから、呼んだらすぐ俺のところに来てくれるんでしょ? そっちの方が便利だよね」
「えっ……私、これからどんな扱いされるの?」
おそるおそる確認すれば、樹君は何も言わずただニヤリと笑い返してきた。
すっかり樹君のペースだ。このままではいけない。私は表情を引き締め、姿勢を正した。
「つまらない用事で、呼び出したりしないでね……私、こう見えて結構忙しいんだから」
「自宅の警備で?」
「違うわよ! “Aqua Next”っていうブランド知ってる? 私、そのショップで働いてるの」
言いながら、バッグから名刺入れを取り出し、中から一枚引き抜いた。
そのまま樹君に差し出したけれど、彼はすぐに受け取ってくれなかった。眉をひそめ、私の名刺を凝視している。
「……樹君、どうかした?」