イジワル副社長と秘密のロマンス

樹君は小悪魔みたいな顔をして、そんなことを言ってくる。


「ご期待に添えられなくて申し訳ありません! 私は今のところ、転職の予定も引っ越しの予定もありません。諦めてください!」


からかわれているのは、分かっているのに、ついつい膨れっ面で言い返してしまった。私もまだまだ子供だ。


「まぁいいか。近いんだから、呼んだらすぐ俺のところに来てくれるんでしょ? そっちの方が便利だよね」

「えっ……私、これからどんな扱いされるの?」


おそるおそる確認すれば、樹君は何も言わずただニヤリと笑い返してきた。

すっかり樹君のペースだ。このままではいけない。私は表情を引き締め、姿勢を正した。


「つまらない用事で、呼び出したりしないでね……私、こう見えて結構忙しいんだから」

「自宅の警備で?」

「違うわよ! “Aqua Next”っていうブランド知ってる? 私、そのショップで働いてるの」


言いながら、バッグから名刺入れを取り出し、中から一枚引き抜いた。

そのまま樹君に差し出したけれど、彼はすぐに受け取ってくれなかった。眉をひそめ、私の名刺を凝視している。


「……樹君、どうかした?」



< 60 / 371 >

この作品をシェア

pagetop