イジワル副社長と秘密のロマンス
彼は私の問いかけに答えぬまま、ゆっくりと手を伸ばしてきた。やっと名刺を受け取ってくれた。
長方形の小さな紙をじっと見つめたあと、強張っていた顔にふっと笑みが浮かぶ。くくくと笑い出した。
「え? 私の名刺、どこか変?」
「いや。名刺は普通……面白いのはそこじゃない」
「じゃあ、なに?」
「秘密」
なにそれとふて腐れながら、私はお酒の入ったグラスを口に運ぶ。
「表参道店ね。俺、そのうち冷やかしに行こうかな」
予想していなかった言葉に、不意打ちをくらう。思わず吹き出しそうになってしまった。
「……くっ、来るの?」
「来店した時は、その嫌そうな顔じゃなくて、最上級の笑顔でおもてなししてよね」
「善処します」
名刺を見つめながら、樹君はほのかな笑みを浮かべ続けている。楽しそうにお酒を飲んでいる。
「ねぇ、樹君はどんな会社で働いてるの?」
グラスを傾けていた彼の手が止まった。ちらりと私に目を向け、少し間をあけてから一言呟いた。
「……無職」
「うん。嘘だよね。絶対無職じゃないよね」
全力で彼の言葉を否定する。
本人の口から、今日は仕事だったと聞いているし、仕事仲間だという二人の男性を見てもいる。