肉食系御曹司の餌食になりました
今から社に戻られた方がもっと困る。
彼より先に戻れる自信がないから。
そうされるくらいなら、私が取りに行くと言った方が時間が作りやすいと思い、「分かりました。すぐにそちらに向かいますので待ってて下さい」と早口で言って通話を切り、スマホをハンドバッグに突っ込んだ。
そこに支社長が戻ってくる。
何食わぬ顔して「長く席を外して申し訳ありません」と私に謝り、「さて、そろそろ肉料理が来る頃でしょうか? フォアグラと牛フィレ肉のグリエ、ポルト酒ソース掛けでしたよね。楽しみです」と微笑みかけてくる。
フォアグラも牛フィレ肉もどうでもいいと焦る私は、ハンドバッグを手に立ち上がった。
「ストッキングが伝線したので、その辺で買って外のトイレで履き替えてきます」と適当な嘘をつき、彼の反応を確かめる余裕もなく急いで店外に出る。
その後はエレベーターを待っていることもできずに階段を駆け下りて、さらに地下街を猛ダッシュし、呼吸を乱しながら小丸百貨店一階のコインロッカーまで戻ってきた。
ひとつだけ幸いなことは、小丸百貨店とタワーホテルが地下街で繋がっていることだ。
ここまでくるのにほんの二、三分しか掛かっていないことだろう。