肉食系御曹司の餌食になりました

『私は今、札幌駅そばのタワーホテル九階のフランス料理店にいるのですが、今すぐこちらに来て下さい。大事な書類を渡し忘れてました。申し訳ありませんがご足労願います』


支社長は明後日の月曜から本社に出張だと、昨日、ラーメン屋で聞いた。

その間に私がやるべきことは指示書にまとめられ、必要書類と共に渡されている。

確認したけど、それらに不足があるようには思えなかったのに、なにを渡し忘れたというのか?

それに加えて『なんで今言うのよ!』という思いでいた。

数時間前まで一緒に会社にいたというのに、思い出すならそのときにしてほしかった。

しかし不満よりも今はマズイという焦りの方が遥かに強く、背中に冷や汗が流れる。


「あ、あの、明日じゃダメでしょうか?
日曜はまだ札幌にいらっしゃるんですよね?」

『それが日曜は朝から晩まで所用がありまして、時間が取れません』

「で、ですが私はまだ仕事中で……そうだ、終わってから取りに行くということでもいいですか? 二十時くらいに」


今すぐというのは無理だから、このデートを終わらせた後に地味な私に戻り、彼に会うしかないと思っていた。それなのに……。

スマホの向こうで支社長がニヤリと笑っている気がするのは、気のせいだろうか?

『申し訳ありませんが、今しか都合がつきません。亜弓さんが来ないのであれば、私が今から社に戻ります』と言われて、焦りが加速した。
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