肉食系御曹司の餌食になりました
彼の瞳に夜景が映り込み、甘く輝くから、鼓動が速まる。
大人の色香を放ちながら、「騙された振りをしたのには、もうひとつ理由があります」と彼は言った。
「チャンスだと思ったんです」
「チャンス、ですか?」
「私に興味を持たないあなたの気持ちを、振り向かせるチャンスです。我ながら上手くいったと思うのですが、どうでしょう?
初来店の日と比べ、亜弓さんの気持ちはどのように変わりましたか?」
この半年間、どれほど心を乱されたことか。
正体がバレないようにといつもヒヤヒヤさせられ、常に支社長の存在を気にしていた。
亜弓にもAnneにも迫るからいい加減な人だと思ったのに、惹かれる心に歯止めがきかず、それでもなにかと理由をつけて、必死に恋心に抗おうともがいていた。
それらは全て彼の作略で、私は彼のストーリー通りに心まで動かされたということだ。
甘く誘う瞳と、ニヤリと意地悪く笑う口元。
完敗を認めてしまえば意地を張る気持ちは湧かず、素直なおかしさに笑うだけ。
「支社長の思惑通りですよ。これっぽっちの興味もなかったのに、今は見事に、あなたのことで心がいっぱいです」
「では、私とお付き合いしていただけますか?」
「こんな地味な女でよければ。支社長は変わり者ですね。アンだけならまだ分かるけど、誰も素顔の私を欲しがらないのに」
すると重ねられていた彼の手が離れ、私のメガネを取り上げる。
ぼやけた視界の中で「見え難いです」と文句を言えば、「もっと近くに寄りましょうか」と言われて、顔の距離が二十センチほどになる。
息のかかる至近距離で、顎の下に彼の指が添えられ、囁かれた。
「他の男達は見る目がないようですね。私なら、あなたを褒める言葉を百通りは並べられます。ですが今は……この欲望に任せて、とても美味しそうだとだけ言わせてもらいます」