不器用男子に溺愛されて
───ピピピピッ
ピピピ、ピピピ、と目の前でしつこいくらいに鳴り響き続ける目覚まし時計。たまたま寄った雑貨屋さんで見つけたお気に入りの目覚まし時計だったはずなのに、私は少しだけ乱暴に目覚まし時計のボタンを押した。
目覚まし時計が鳴るずっと前から起きていた。いや、鳴る前というより、寝ていない。寝られなかったのだ。
少しでも気を緩めればすぐにこぼれてしまう涙。こんなことで私は仕事に行けるのだろうか、そう思い、何度も仕事を休む選択をすることを考えた。しかし、そんなことをすれば理久くんがきっと罪悪感を感じてしまう。私は、理久くんを少しでも苦しめるようなことはしたくない。
「止まれ、止まれ、止まれ。大丈夫、大丈夫、頑張れ私」
私は、呪文のようにそう唱え続け、両頬をぱちんと両手で挟むようにして叩いた。
そして私は、いつも通りシャツの上に制服であるチェックのベストと、グレーのタイトスカートを履いて、その上に薄ピンクのカーディガンを羽織り家を出た。
何度も、何度も、理久くんと別れたことを夢なんじゃないかと思った。
何度も、何度も、あれは冗談とか嘘だったんじゃないかと思った。
だけど、私は今日寝ていないし、理久くんは冗談や嘘を言う人じゃない。夢でも冗談でもないこの現実に、私の心は今にも潰れてしまいそうだった。