不器用男子に溺愛されて
「おはようございます」
会社に着き、オフィスの扉の前で一度深呼吸をした後、ゆっくりと扉を開いた。
いつもなら着いて一番に探す理久くんの姿を、今日は探さない。見てしまったら、またすぐに涙が溢れてしまうような気がしたから。
「みや子、おはよ」
「あ。咲ちゃん、おはよう」
「また、今日も見たのー? 愛しの性悪彼氏をさ」
「えっ……あ、えっと」
少しだけ呆れたように笑って言った咲ちゃん。
毎朝このオフィスに入る度に理久くんを見ていて、「今日もかっこいいなあ」なんて、私がいつもひとり呟いているのを咲ちゃんは知っている。そんな咲ちゃんの言葉に、私はただ戸惑ってどう返すべきか考えていた。すると。
「何よ、みや子の日課じゃないの。今日はまだ見てないの? あそこにいるじゃない、あそこに。また加奈代さんと言い合いしてるのかな」
そう言った咲ちゃんの言葉に、私は無意識のうちに視線を咲ちゃんの指差す方向へ向けてしまった。
しまった、と思った。理久くんの姿を視界に入れた瞬間、私の瞳からはじわじわと涙が浮かんできて、大粒の涙がデスクの上に水溜りを作っていく。
「みや子……? ちょっと、なに、みや子どうしたの」