不器用男子に溺愛されて
「ごめ……ごめっ、ん」
言葉を発しようとすると、余計にこぼれ出す涙に私はどうしたらいいのか分からなくなっていた。私の涙腺は壊れてしまったのではないか。そんな風に思ってしまうほど、溢れる涙は勢いを増していた。
すると、そんな私の手を握った咲ちゃんが突然早歩きを始めた。私は顔を俯け、ただ咲ちゃんに手を引かれながら歩き続けた。
「ちょっと、どうしたの。みや子、何かあった?」
誰もいない女子トイレの洗面台前。みや子ちゃんが、泣き止まない私の事を心配そうに覗き込んできた。
私は必死に呼吸を整え、涙を止めようと試みた。すう、はあ、と何度も大きく呼吸をした。そして、やっと声が発せそうなくらいには落ち着いた私は口を開いた。
「……あ、のね。咲ちゃん、私、理久くんと……別れちゃった」
えへへ、と口角を上げて笑ってみせた。すると、咲ちゃんは目を丸くして驚いた。
「えっ」
「昨日ね、自分が思ってることとか、自分がして欲しいことを全部言ったんだ。だけどね、ダメだった。失敗しちゃった」
「みや子……」
咲ちゃんの眉尻がだんだんと下がっていく。悲しそうにこちらを見て、今にも泣いてしまいそうなほど潤う瞳をしている咲ちゃんは本当に優しい。
「咲ちゃん、泣かないでね」
私がそう言って笑うと、咲ちゃんは「私は大丈夫よ」と言って笑った。だけど、やっぱり彼女の瞳は今にも涙をこぼしそう。