不器用男子に溺愛されて

「よく、頑張ったね。本当、みや子は良い子なんだから」

「うん」

 咲ちゃんは、きっと、敢えて深くを言わなかった。言葉が多ければ多いほど、私を苦しめることを分かっているから。だから、私の頭を撫でて、頑張ったねと言って笑ってくれた。

 何とか涙を止められ、赤くなっていた鼻の色も戻りつつあった私と咲ちゃんは、恐る恐る女子トイレを出た。

「ちょっとサボっちゃったね」

「ごめんね、私のせいで」

「何言ってんのよ。みや子のせいじゃない。それに、たまにはこういうのも悪くないじゃない」

 そう言って咲ちゃんが笑った。そんな咲ちゃんを見ていると、私たちの背後から突然声が飛んできた。

「おサボりさん、みーつけた」

 その声に振り向くと、そこには同じオフィスで働いている森田(モリタ)さんがいた。

 グレーのスーツを着こなす森田さんは、明るい茶色の髪を少し遊ばせていて、軽そうなイメージだ。確か、理久くんと同期の社員さんだという話を前に加奈代さんから聞いたことがある。

「まーた、あんたね。いちいち話しかけないでよ。私達すごく大事な話ししてたのよ。サボりでも何でもないんだから」

 変な言いがかりやめてよ、と咲ちゃんが犬でも追い払うように手を払った。

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