不器用男子に溺愛されて

 ちらりと私の方を見て、その後すぐにミャーコへと視線を移した彼は、足の上で気持ちよさそうにしているミャーコを撫で続けている。

「ううん。何もないんだけど、ちょっと、怒ってるのかと思って……」

 ぼそぼそ、と小さく呟く。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟き、理久くんの様子を伺った。

「別に。怒ってなんかないけど」

 理久くんは、ミャーコを撫でる手を止めることなく平然とそう返した。

「そっか……ごめんね。勘違いだったみたい」

 理久くんの感情は、分かりやすいようで分かりにくい。いつも怒っているようにみえる。そんな不機嫌そうな表情を浮かべているけれど、実はそうでもなかったりする。

 表情や言葉と、内に秘める感情が殆ど真逆である理久くんは、きっと、不器用なんだ。ただ不器用なだけで、周りに勘違いをされてしまうだけなのだ。

 今の〝別に。怒ってなんかないけど〟という言葉も、本当は怒っているけれどそう言って感情を隠しただけなのかもしれないと私は思った。もちろん、真意はわからないけれど。

 不器用で、分かりにくくて、難しい。だけど、そんな彼の感情を読み取ろうとするのは決して苦ではない。その分かりにくい彼の感情の正体を無理矢理引き出す事はせず、私は彼の感情を読み取り、汲み取ろうと試みるだけ。

 ただ、いつか、その感情をどんな形でもいいから、自然と私の方へと出してくれるようになればいいなと、私はそう思うのだ。

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