不器用男子に溺愛されて
理久くんが、自分の感情を自然と私に出してくれるようになる日。それはいつになるのだろうか。そんな事を考えていた金曜日の朝。オフィスの奥では、また加奈代さんと理久くんが言い合いをしていた。
「こら!あんた、謝りなさいよ!私に向かってババアですって⁉︎」
「本当の事言っただけだけど」
「はあ? 私のどこがババアよ。大体、私はあんたと同い年じゃない!この性悪ジジイ!」
周りを気にしていないのか、もしくは、気にしないようにしているのか。いつもの如く大きな声を出している加奈代さん。そんな加奈代さんと、まるで加奈代さんを相手にしていないような態度の理久くん。私と咲ちゃんは、自分の席からただじっとその二人の姿を眺めていた。
「またやってるね、あの二人」
「そうだね……なんでいつもあんなに言い合いしてるんだろう」
「喧嘩するほど仲が良いって言うけど、それとはなんか違うよね。って、あ、来た来た」
咲ちゃんに向けていた視線を、ふと言い合いをしている二人の方へと戻した。すると、言い合いを終えたのか、加奈代さんが眉間にしわを寄せて怒っているような表情でこちらへと向かってきていた。
「みや子ちゃん、本当、どうしてあいつなの?」
加奈代さんは私たちのデスクの側に立つなり、いつもと同じような台詞を発し、溜息をついた。