不器用男子に溺愛されて
咲ちゃんと私は、二人一緒に会社へと入るとそのままオフィスへ向かった。
「もし、昨日のことが本当なら……みや子はどうするの」
オフィスへ向かう途中、咲ちゃんが前を向いたままでそう小さく尋ねた。
「うん……」
〝昨日のことが本当なら〟
それは、つまり、理久くんが元彼女と浮気をしていたんだとしたらということ。
私は、一瞬の間でたくさんのことを考えた。昨日から今日にかけても何度も考えていた。だけど、私の中でブレないものは確かに一つだけあった。
「本当なら……ううん。本当じゃなくても、私、痩せる」
「え?」
「痩せて、髪も伸ばして、あの女の人みたいに綺麗になって、理久くんに私の方を選んでもらうの」
もともと大きな瞳をさらに大きく開いて驚いている咲ちゃんに向けて、私は歯を見せて笑った。
私は、昨日も今朝も、今の一瞬も同じことを何度となくループするかのように考えていた。
だけど、やっぱり、いつ、何度同じことを考えたって〝別れる〟という洗濯だけはしたくないと思った。別れなくても良い方法を何度も考えていた。
「みや子……あんたって子は」
強くなったわね、と言って咲ちゃんがわしわしと私の髪を撫でた。私は、そんな咲ちゃんと笑い合うと、気合を入れていつものオフィスへと足を踏み込んだ。