不器用男子に溺愛されて
「そっ、か」
逞しくなっちゃって、と言って咲ちゃんが首にかけているタオルで汗をぬぐいながら笑った。私は、そんな咲ちゃんの言葉が照れくさくて遠慮がちに口角を上げる。
「そういえば、咲ちゃんの方は? 佐伯さんとうまくいってるの?」
「えっ⁉︎」
「この間、佐伯さんに聞いちゃった。一緒にご飯行ったんだよね?」
目を丸くした後、知ってたんだと言わんばかりの複雑な笑顔を浮かべる咲ちゃんは、首を縦に振りながら口を開いた。
「うん。佐伯さん、タイプだったから結構前から話しかけたりしてて。この間やっとご飯行ってくれたよ。ご飯も楽しかったし、佐伯さんも良い人だったんだよね。だけど……」
「だけど?」
「森田さんがもう、本当しつこくて。どうしようって感じかな」
やだなぁ、と付け足しつつも、咲ちゃんの表情は心なしか柔らかく、少しだけ嬉しそうに見えた。
「森田さん、咲ちゃんのこと本当に真剣に想ってくれてると思うよ。私」
「そうかなぁ? まぁ、この間告白……というか、宣戦布告されたんだけどね」
「え⁉︎」
「〝俺、咲ちゃんと絶対付き合う。落とすから〟って。どこの少女漫画よ、と思ったけどね」
咲ちゃんの口角が上がる。口角の先にある頬は、暑いからなのか、それとも森田さんの事を考えてなのか、ほんのりピンク色に染まっている。