最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。

「……え?」


多賀宮くんの顔が近づいてくる。


ヴァイオリン?と思った次の瞬間、なにかが唇に触れていた。


優しく、そっと。

そして長いまつげを伏せた多賀宮くんの顔が、目の前から離れていく。


なにが起こったか、その瞬間はわからなかった。


でも……たった今唇に触れた熱は、夢でも幻でもなくて。


今の……えっ……もしかして……。

えっ……?


いきなりのことに思考が追いつかない。


どういうこと?


「あ、あの……っ」


その瞬間、ガタンと大きな音がして、観覧車の扉が外から開く。


「おっつかれさまでーす!」


元気よく係員のお兄さんに挨拶とともに、私たちは観覧車からあっけなく地上に降ろされる。


ムワッとした空気が肌にまとわりつく。


現実の世界に帰ってきた。そう思った。


そして完全に、キスの理由を尋ねるタイミングを逃してしまっていた……。
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