王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

「残念だわ。もう行ってしまうのね」

「まあね。俺たちは流浪の商人さ。旅をして、金をくれる客を探して、それからまた旅をするんだ」


これまでラナが住んでいた島は皆が決してそこから出ることのない王国で、こういった出会いと別れも初めてのことだったので、彼女はなんだか心細くなった。

そうやって隊商の旅立ちを惜しんでいると、荷馬車の陰にいたシェノールが、急にうめき声を上げた。


「シェノール? なにしてんだ?」


マクシムが首を傾げて振り返る。

ラナも一緒にそちらへ様子を見に行くと、シェノールは胸を押さえ、崩れ落ちるようにその場に倒れてしまった。


「シェノール!」


マクシムが慌てて彼を抱き起こす。

壮年の男は苦しそうに胸元に手をやり、額には大量の汗をかいている。

息は荒く、元々白い顔が真っ青になっていた。
身体が激しく痙攣し始め、すでに意識はない。


「ルザ、キティ! こっちへ来て!」


ラナは大声で彼らを呼び寄せる。


「シェノール! しっかりしろ!」

「どうしたのかしら。胸が苦しいの?」


彼の顔は苦痛に歪むばかりで、ついには呼吸におかしな音が混じり、症状が良くなる気配はない。


「どうしよう。俺たちの隊には医者がいないんだ」


マクシムは泣きそうな顔で言った。
彼には一緒に旅をする、家族同然の男である。

ラナはマクシムを勇気づけるように、彼の肩に力強く触れる。


「シェノールをお城へ運びましょう。王城には優秀なお医者様がいるわ。馬車を借りてもいいかしら」


それから王女の護衛として側に控える近衛兵たちを振り返った。
< 105 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop