王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
(だから私は、決してこの男の思い通りになってはいけない。剣も武術も使えないけれど、私には私の戦い方があるのよ)
ラナは顔を上げると右手に持った深紅の扇を優雅に開き、品位に満ちた所作で口元を隠す。
意思の宿る青い目で男を射抜いた。
「たしかに私はスタニスラバ王室の末娘として、王立海軍の統帥権を所持しておりました。けれど残念ながら、それは昨夜までのことなのです」
上機嫌だったアルベルトの表情が変わる。
「ほう。それはどういうことかな、王女殿下」
彼は自分に歯向かう者が好きではないし、それがこのような少女ならなおさら気に入らない。
ラナも負けじと扇の下のバラ色の唇で弧を描いた。
事実、王女は皇帝を出し抜いている。
「我が国と一切の交流がなかった皇帝陛下がそこまでご存知でないのは仕方のないことですけれど、スタニスラバの王家の娘は、婚姻関係を結んだ場合のみ、夫となる人に一代限りで統帥権を授けることができます。私はただその慣習に従い、婚約者にこの権利を譲渡したまでのこと」
ラナがバルバーニへ向かう馬車の中でキティに代筆させたのは、これを証明するための書簡だった。
それもきっと既にエドワードの手に渡っているはずだ。
これまで異国の王子と結婚をした娘がいなかったから前例のないことではあるけれど、このことの経緯とラナのサインを見れば、国王である父や参謀総長のヴィートは彼女の意思をわかってくれるだろう。